ジャパンクリエイトグループは、人材派遣によるアウトソーシング事業を中核に多角経営を展開するホールディングス企業です。2001年、株式会社ジャパンクリエイトを創業以来、「企業は人なり」を経営の軸に時勢に応じた発展を遂げ、現在、ホールディングス企業として15社を束ねています。
グループ全体の放つメッセージは、ーJobfullな明日をー。「社会に、喜びが満ち溢れた多くの雇用が創出されていく未来を創りたい」という想いが込められています。自ら身をおく地域社会から想いを実現するために、事業を通して『価値の創造』『責任ある事業活動』『社員の活躍の促進』に取り組み、2022年より、グループの中間管理職〜経営陣を対象に、1on1の産業僧対話や管理職向け研修・講演等、Interbeing社のサービスを人事施策に導入。
創業者であり代表取締役会長としてグループを率いる五十嵐 庸公会長に、導入の経緯や効果についてお話を伺いました。
松本
ジャパンクリエイトグループの事業内容は幅広いですが、主には人材派遣、アウトソーシング業が基盤にあるのでしょうか。
五十嵐
創業当初は、製造、流通における人材派遣を主な事業としていました。リーマンショックを皮切りに事業を多角化いたしまして、現在は国内事業を中心に、人材ビジネス、食品流通分野を主軸としたアウトソーシング事業を中核として、店舗運営ビジネス、webプロモーション、環境インフラと多岐にわたります。創業事業であるジャパンクリエイトとしての事業の特徴はメーカーや物流企業の一部を10名~100名単位で請負事業展開もしております。松本
組織的に人材派遣をするということですね。
五十嵐
そうですね。まずは、お客さまの指導のもとで仕事を覚え、現場の状況を理解することからですが、そのうえで、課題や要望などお客さまのニーズに応じた人材を配置し、マネジメントを含めてチームで現場を請け負います。こうした、業務プロセスの一部を一括して請け負う(または委託する)ことを、最近は「ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)」と呼ばれていますね。
リーマンショックで人材派遣業の売上が激減しまして、それを受けて事業の多角化を進めるなかで手掛けた一つが、食品流通事業でした。具体的には精肉の小売店を全国展開してきました。私どもの家業であった精肉店を傘下にして、グループの資本力で大きくしていった経緯があります。今では、食品流通における事業規模は人材派遣業を上回ります。多角化の過程では、M&Aや営業権譲渡を含めると40社以上になりますが、同職種などを合併したりしたため現在は15社に集約されています。
松本
グループ企業の会長として、五十嵐会長ご自身がされているのはどういったことでしょう。
五十嵐
一つは、グループ全体の決めごとですね。私が出る会議は年2回のグループ全体の戦略会議と月1回の取締役会です。各社の判断はそれぞれの社長や担当役員に任せています。私自身の最大の仕事は、従業員が働きやすい環境整備を行うことかと思います。社内の従業員の健康管理から、取り巻く環境を含めた全体の環境整備でしょうか。例えばSDGsなど、地域社会や世の中が要求するウェルビーイングな経営に、私たちはどのような取り組みができるか、問いを投げかけるのが私の役割かと思います。
松本
会社の業績を上げるため、目の前のタスクに貼り付くように応じている現場のみなさんに、俯瞰的な視点を持ち込まれているー
五十嵐
みなさんには、事業を拡大するための仕事をそれぞれに一生懸命やっていただいていて、それは非常に大切なことです。日々仕事に追われながら、同時に社会情勢に目を向けるのはなかなか難しい。ですから、力量不足ではありますけれども、異なる視点を問い掛けるような役割を、私が少しでも担えたらと思っています。
産業僧の原点 -僧侶という社外相談役-
松本
ジャパンクリエイトグループには、これまでInterbeing社の産業僧として、社員の方との1on1対話や講演をさせていただきました。個人的には、五十嵐会長とはInterbeing社を立ち上げる以前からのご縁になりますが、今になって思えば知人のご紹介でご一緒させていただいた対話の時間が、産業僧の原点であったかと思います。
五十嵐
そうでしたか。
23年前に会社を創業しまして、事業が安定するまでの3〜4年は、私自身、自ら営業しながら第一線で働いていましたけれども、いったん事業が安定してくると "あそび" といいますか、脇の甘いことに手を出しやすいのもこの業界の特徴であって、自分の会社も彷徨う時期がありました。監査役などで関わっていただいていた人生の先輩方も、年齢を重ね引退の時期が差し迫るなか、これからの事業のためにも幕賓(ばくひん)的な存在が私自身に必要だろうと。経営コンサルの知人に相談を持ち掛けて、ご紹介いただいたのが松本僧侶との出会いのきっかけでしたね。その時は、どなたかをお繋ぎいただくお役割でお会いしていましたが、色々とお話しやすくて、以来、個人的にお付き合いさせていただくようになりました。
松本
ありがたいことです。
五十嵐
グループ会社のトップにあれば、ものごとに線引きをしていく必要があります。トップというのは常に、ある意味、孤独感を感じるものです。そうした中で、状況を共に俯瞰的にみたり、あるいは、異なる視点を共有できる相談相手が会社の外にいてくれることは、心強いーと、そんな想いもあって、お付き合いさせていただいています。
松本
定期とも不定期とも言えませんけれど、四半期に一度ぐらいだったでしょうか。食事などしながら、静かな場所でお話させていただいていました。そこから、産業僧の道がひらけたのかもしれません。
俯瞰的に捉えるという点では、コンサルティングやコーチングなど、第三者的な相談役は今や様々な選択肢があるなかで、「僧侶」を相談役に置くということは、五十嵐さんにとってどういうことだったのでしょう。
いにしへの智慧をいただいて、人をみる。自らの成長をもって、人を育てる
五十嵐
私は昔から「人徳経営」に関心がありまして、各界の経営者の著書を読んだりしていました。コンサルティングでは、大体は売上や収益に目を向けて、業績を上げるため、どのような事業づくりと組織づくりをするかがテーマになります。そこについては、私は自分なりのノウハウがあると思っています。会社は人材ですので、「人」に焦点を当てた時、「業績をつくる人」をいかに扱うかというより、事業に集まる「人をみる」にあたって、長年受け継がれてきた教えというのは、やはり響くものがあるんですね。それは、宗教である必要はないのですけれども、僧侶にお会いしていると落ち着きますし、精神世界における心のケアになるものは、雑踏した世に身を置いて経営を行う経営者にとって、必要だと思います。
五十嵐
働く人も、業績を追い掛け、組織に揉まれ、人との関係から精神的に追い詰められて鬱になっていくー。家庭環境や親子関係で抱えている問題や悩みなど、特に社外のことについては、組織の中ではケアできないところがあります。
松本
プライベートに立ち入ることは、会社という組織においては、そもそもあまり馴染まないことでもありますね。とはいえ、一人の人としてプライベートと仕事を完全に切り分けられるものではありませんから、必ず影響が出てくるものです。
五十嵐
普段、家がお寺の檀家であったりして僧侶とのお付き合いや仏教に触れられる人は、現代ではほんの僅かではないでしょうか。
松本
リタイアされ、時間にゆとりができてお寺に足を運ばれる方は多くいらっしゃいますけれど、日々仕事に追われている現役の方は、関心があったとしても、なかなか難しいと思います。
五十嵐
特に、チームのマネジメントをする中間管理職は、一番思い悩んでいると思います。少し俗世間から離れた場で、僧侶と話をしたり悩みを相談をすることで、絡まっていた思考を整理できたり、沸々としていた心のケアができればいいな、と。そして、時にどうしても偏ってしまう考え方をみつめるためにも、必要だろうと。まずは一度、場面づくり、環境づくりをしてみようと、産業僧を社内に導入しています。
松本
経営幹部の方々を対象に、何度か講演もさせていただきました。そこには、どういった意図があったのでしょうか。
五十嵐
人生を生きるにおいて、社員は家族のようでもあり、誰よりも長い時間を共にする仲間でもあります。そうした仲間の家族も、私たちは大切にしなければいけません。ひと家族5人とすると、1人雇えば5人、100人雇えば500人の生活を担っていかなければいけない。会社にはそういう使命があると、昔聞かされたことがありまして、私はその考えに共感しているんですね。経営陣や幹部の方々に、会社にはそうした使命があることを伝えるにあたっては、まず、自らがそうした精神世界において、実態をもって落ち着きのある存在でないといけませんね。人間ですから、感情や欲などが昂って行動に出てしまうこともありますけれど、教育というのは、自分自身の成長がなければ、それ以上にはならないだろうと。知識武装するだけでなく、精神的な人格成長が必要だと思いますね。
最近、第一線を引退された先輩経営者の方から『論語』を薦めていただきまして。本を手にして読んでみると、これが大変心に響くんですね。社内会議の冒頭で、以前は禅の言葉を用いていましたけれど、最近は『論語』の一節を紹介するようにしています。そこには、例えば「己の欲せざる所 人に施すこと勿れ(自分がされて望まないことは、人にしない)」といった当たり前のことが書かれているわけですが、世の中には、そうした当たり前のことが、当たり前にできない状況に溢れています。
大きくは戦争や政治の話から、身近なところではハラスメントなど様々ありますけれども、そうしたことは、いにしえからずっと、先人たちの教えのなかで語られています。禅のことばであれば、ざっと一千年前から語り継がれているわけです。人間の精神構造は、文明がどんなに発展しても、そう変わっていない。受け継がれてきた智慧を会社の仲間に共有したい一方で、利益を上げることに躍起になっている経営者が、そうした教えを解いたとしてもあまり説得力がないといいますか、綺麗ごとになりかねません。そこは、お坊さんのお役目なのかなと、ある意味、お坊さんの存在を利用させていただいて、力になっていただいている次第です。
理念を耕しながら、仲間になっていく
松本
利益を求める話と普遍的価値を求める話は、五十嵐さんの中では一つであっても、状況によって二股に聞こえることがあります。そうした意味で、顔を変えた方が伝わりやすいということは確かにあって、産業僧の役割は、普遍的な価値を翻訳、代弁する役割ではないかと思っています。
どんな企業であっても、多くの場合、理念は普遍的メッセージを持ち合わせています。一方で、日々の現実に向き合い、利益や実績での結果を出すことを求める経営者の立ち場からは、そこに普遍的価値を伴う理念や哲学があることは伝わりにくい。僧侶という存在から、相手に合わせて語り直すことで共有できることがある。そこでは、仏教の教えをあえて持ち込む必要はなく、むしろ、傍に置いておいていい。やっていること自体は、理念を会社の内外に浸透させていくという点で「布教」に近いと思いますね。
五十嵐
私自身、立場的に、日々の業務に立ち入っていないだけにわからないー。ゆえに、言いやすいということもあります。普段からものを言う立場にないから言いやすい、と言いますか。言われる人も、少し距離がある人からの方が、受け取りやすいかもしれません。
松本
会長という立場は、より哲学的、 "僧侶的" な立場かもしれませんね。
五十嵐
哲学のない経営は、永続的には続かないと思います。一代限りで終わったり、事業を容易く売ってしまうような経営には、哲学がないように思いますね。その時々の経営者が、学びながら次の世代へと渡していくことが大切で、短期的な判断や振る舞いで会社を潰すようなことはしない方がいいと、私は思います。ですから、社内で哲学を共有できていることは大切で、意識を耕すためにも、仏教や儒教、道教といった古典の智慧を取り入れています。
ただ、現代社会にはあまりそぐわない語り方もありますから、時に翻訳も必要で、選択をしながらですね。売上やコストをシビアに捉えながら、人間学的なことを語るのは、矛盾も生じます。そうした物事を俯瞰して整理することは、幹部層からやっていかなければいけない。
松本
人を育てる人から、ということでしょうか。
五十嵐
社員から悩みごとが出た時に、そこに至る過程をみながら、ゆったりと相談に乗ってあげられる徳の高い人材が育っていくといいなと思いますね。自ら学びの機会を重ねることはなかなか難しいですから、会社が、それが出来る環境を整えていけるといいなと。
産業僧対話では、これまで色々な人と対話をされてきたと思いますが、本人が自ら望んでいてこそ響くものがあるでしょうし、対話する意味がありますよね。何か問題を抱えている人にこそ対話の機会をと思うのですが、そうは思うようにはならないことに、私たちの課題があるのかも、しれません。
変わりゆく仲間によって、未来へつながる経営を
松本
産業僧や仏教との関わりで、期待していることなどあれば教えていただけますか。
五十嵐
少人数のチームで、対話を深めることをしてみたいですね。特に、夜にかけて泊まり込みで行うと、お互いの存在をより近く感じられるようになるのではないかと思います。オンラインで便利になりましたけれど、その人の "為人"(ひととなり)は、仕草が見えたり、対面の触れ合いがあってこそ感じられるものがあります。社員全員とは難しくとも、俯瞰した視点で事業を捉え、哲学を共有できる人材を育てるためにも、幹部にあたる社員を5〜10人集めて繰り返し行うことができるといいですね。
松本
さっそくにでも、させていただきたいと思います。私たち(Interbeing社)も、企業理念を題材に少人数で対話を深める「理念共振プログラム:"預流果(よるか)"」を始めました。とてもいい場が生まれていて、可能性を感じているところです。理念について純粋に語り合う場面は、業務上はなかなかないものでしょうか。
五十嵐
「理念経営」を大切にしていますので、理念を語るのは私の役割でもあって、年に1〜2度は機会があります。毎年、新しく入られる社員に向けてお伝えしている内容は、時勢に寄せて毎回変わりますので、全社員にアーカイブ録画を共有しています。毎日朝礼で社訓を唱えることもしています。とはいえ、すべての社員がそれをくまなく観ているわけでも、社訓が腑に落ちているわけでもないでしょうから。それよりも、日々、自分のやっている活動のなかに、自分や会社が目指すべきことを見出して捉える視座をもってもらいたいと思いますね。そこで生じる悩みを、仲間同士で語り合い、耕していくようなことができるといい。どなたかのコーディネートのもと、意見をもらいながら対話を重ねていくと、仲間意識が生まれるのではないかと思います。
私自身、業績を上げるための精神性といいますか、「未来をこうしたい」という想いを描き、実現のために何をすべきか、自分なりに考えたものを現在の経営ノウハウにしています。そうしたものが、会社の伝統になっていくのだろうと。一人ひとりそれが出来れば、その人の伸びしろも、会社の伸びしろもまだまだ広がっていく。ただ、余裕がない人が多いですし、それができる環境にない現状もあります。
松本
それぞれに、担っている役割や課された仕事に一生懸命な故に、はまり込んでいる枠組みからちょっと出てみるような揺さぶりによって、飛躍やブレイクスルーが生まれるということはあると思います。場所を変えたり人を変えたり、日常とは異なる時間の流れや環境に身をおくことは、今までの枠にはない要素を取り入れる機会になります。歴史ある非日常空間の「お寺」という場は、活かせると思いますね。
五十嵐
そう思います。以前、お寺で経営陣の研修を行っていた時期がありました。私の語りばかりでは限界がありますから、お坊さんに法話をいただくことは大事な要素だったんです。今回は、法話という形だけでなく、お坊さんに、集まるメンバーの中に入り込んでいただいて、一緒に語り合っていくような場ができればと思いますね。そういった機会はなかなか自ら創れません。
私が30歳になった頃のことだったでしょうか。かつて勤めていた会社で、研修として比叡山合宿がありました。6日間の厳しい修行でしたが、その時いただいたお坊さんの法話のお言葉が、今も心に残っているんですね。参加していた全員に残っているとは思いませんが、参加した人の二割か三割にでも響いていれば、将来に活きる。そうした人が会社の中核になっていくんじゃないかと思うんですね。場合によっては、会社を辞めて自分で事業を起こすかもしれませんが、それはそれでよしとして。
ジャパンクリエイトグループは「企業は人なり」という経営方針ですので、最終的には人材づくりです。2024年の重大方針に「次世代の人材の育成」というテーマがあります。長いスパンでやっていくことだと思っています。
松本
経営陣も入れ替わっていきますよね。取締役にも若い世代が新たに入って来られます。その方々にも、肩書きだけではなく、本当の意味で仲間になっていくというプロセスを続けていくということが大切かもしれません。
五十嵐
産業僧対話は、対話の内容は会社に共有しないことが前提にありますよね。だからこそ話せることがあるわけで、見えないけれど、長い目でみて効果があらわれてくる。これは、費用対効果がわからないということでもあって、企業が導入するには難しい一面がありますね。
松本
そうですね。評価ができないだけに、導入もしにくいと思います。産業僧対話では、対話の「音」をAI音声感情解析により、社内にどういった声や感情が生まれているかを集合的に捉えてご報告させていただいています。ただ、おっしゃる通り効果が見えにくく、共有が難しいこともあります。ですから、一対一の対話のみならず、経営陣やスタッフ間で会社の理念を深掘りしていくチームビルディング、つまり、お互いの人格を高め合う仲間になっていくプロセスにも、産業僧が共にできればと考えています。
1on1の産業僧対話で、一人ひとりのケアや気づきに立ち合いながら、関係性と全体性を耕していく「理念共振プログラム:"預流果(よるか)"」の両輪で組織をみることで、よりホリスティックで長期にわたって価値が生まれる取り組みになるかと思います。
五十嵐
渋沢栄一さんの『論語と算盤』(*)は、実にうまいことを仰っています。綺麗ごとだけではいかないのが企業でありますしー
松本
ーこの世の中でも、ありますね。
*「論語というものと、算盤というものがある。これは甚だ不釣り合いで、大変に懸隔したものであるけれども、不断に算盤は論語によってできている。論語はまた算盤によって本当の富が活動されるものである。ゆえに論語と算盤は、甚だ遠くして甚だ近いものであると始終論じておるのである。(中略)正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。ここにおいて論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめることが、今日の緊要の務めと自分は考えているのである。」渋沢栄一『論語と算盤』より
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INTERVIEW
変わりゆく仲間によって、未来へつながる経営を
ジャパンクリエイトグループ
代表取締役会長
五十嵐 庸公 様
産業僧対話
ジャパンクリエイトグループ
代表取締役会長
五十嵐 庸公 様
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音声で聴く経営者インタビュー
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