• 2024年4月

    産業僧対話 / AISATSU Dialogue 経営者インタビュー

    変わりゆく仲間によって、未来へつながる経営を

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    ジャパンクリエイトグループ

    五十嵐庸公様

    代表取締役会長

    ジャパンクリエイトグループは、人材派遣によるアウトソーシング事業を中核に多角経営を展開するホールディングス企業です。2001年、株式会社ジャパンクリエイトを創業以来、「企業は人なり」を経営の軸に時勢に応じた発展を遂げ、現在、ホールディングス企業として15社を束ねています。

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    グループ全体の放つメッセージは、ーJobfullな明日をー。「社会に、喜びが満ち溢れた多くの雇用が創出されていく未来を創りたい」という想いが込められています。自ら身をおく地域社会から想いを実現するために、事業を通して『価値の創造』『責任ある事業活動』『社員の活躍の促進』に取り組み、2022年より、グループの中間管理職〜経営陣を対象に、1on1の産業僧対話や管理職向け研修・講演等、Interbeing社のサービスを人事施策に導入。

     

    創業者であり代表取締役会長としてグループを率いる五十嵐 庸公会長に、導入の経緯や効果についてお話を伺いました。

  • 松本 ジャパンクリエイトグループの事業内容は幅広いですが、主には人材派遣、アウトソーシング業が基盤にあるのでしょうか。

    五十嵐 創業当初は、製造、流通における人材派遣を主な事業としていました。リーマンショックを皮切りに事業を多角化いたしまして、現在は国内事業を中心に、人材ビジネス、食品流通分野を主軸としたアウトソーシング事業を中核として、店舗運営ビジネス、webプロモーション、環境インフラと多岐にわたります。創業事業であるジャパンクリエイトとしての事業の特徴はメーカーや物流企業の一部を10名~100名単位で請負事業展開もしております。

     

    松本 組織的に人材派遣をするということですね。

    五十嵐 そうですね。まずは、お客さまの指導のもとで仕事を覚え、現場の状況を理解することからですが、そのうえで、課題や要望などお客さまのニーズに応じた人材を配置し、マネジメントを含めてチームで現場を請け負います。こうした、業務プロセスの一部を一括して請け負う(または委託する)ことを、最近は「ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)」と呼ばれていますね。

    リーマンショックで人材派遣業の売上が激減しまして、それを受けて事業の多角化を進めるなかで手掛けた一つが、食品流通事業でした。具体的には精肉の小売店を全国展開してきました。私どもの家業であった精肉店を傘下にして、グループの資本力で大きくしていった経緯があります。今では、食品流通における事業規模は人材派遣業を上回ります。多角化の過程では、M&Aや営業権譲渡を含めると40社以上になりますが、同職種などを合併したりしたため現在は15社に集約されています。

     

    松本 グループ企業の会長として、五十嵐会長ご自身がされているのはどういったことでしょう。

    五十嵐 一つは、グループ全体の決めごとですね。私が出る会議は年2回のグループ全体の戦略会議と月1回の取締役会です。

    各社の判断はそれぞれの社長や担当役員に任せています。私自身の最大の仕事は、従業員が働きやすい環境整備を行うことかと思います。社内の従業員の健康管理から、取り巻く環境を含めた全体の環境整備でしょうか。例えばSDGsなど、地域社会や世の中が要求するウェルビーイングな経営に、私たちはどのような取り組みができるか、問いを投げかけるのが私の役割かと思います。

     

    松本 会社の業績を上げるため、目の前のタスクに貼り付くように応じている現場のみなさんに、俯瞰的な視点を持ち込まれているー

    五十嵐 みなさんには、事業を拡大するための仕事をそれぞれに一生懸命やっていただいていて、それは非常に大切なことです。日々仕事に追われながら、同時に社会情勢に目を向けるのはなかなか難しい。ですから、力量不足ではありますけれども、異なる視点を問い掛けるような役割を、私が少しでも担えたらと思っています。

     

  • 産業僧の原点 -僧侶という社外相談役-

    松本 ジャパンクリエイトグループには、これまでInterbeing社の産業僧として、社員の方との1on1対話や講演をさせていただきました。個人的には、五十嵐会長とはInterbeing社を立ち上げる以前からのご縁になりますが、今になって思えば知人のご紹介でご一緒させていただいた対話の時間が、産業僧の原点であったかと思います。

    五十嵐 そうでしたか。

    23年前に会社を創業しまして、事業が安定するまでの3〜4年は、私自身、自ら営業しながら第一線で働いていましたけれども、いったん事業が安定してくると "あそび" といいますか、脇の甘いことに手を出しやすいのもこの業界の特徴であって、自分の会社も彷徨う時期がありました。監査役などで関わっていただいていた人生の先輩方も、年齢を重ね引退の時期が差し迫るなか、これからの事業のためにも幕賓(ばくひん)的な存在が私自身に必要だろうと。経営コンサルの知人に相談を持ち掛けて、ご紹介いただいたのが松本僧侶との出会いのきっかけでしたね。その時は、どなたかをお繋ぎいただくお役割でお会いしていましたが、色々とお話しやすくて、以来、個人的にお付き合いさせていただくようになりました。

     

    松本 ありがたいことです。 

    五十嵐 グループ会社のトップにあれば、ものごとに線引きをしていく必要があります。トップというのは常に、ある意味、孤独感を感じるものです。そうした中で、状況を共に俯瞰的にみたり、あるいは、異なる視点を共有できる相談相手が会社の外にいてくれることは、心強いーと、そんな想いもあって、お付き合いさせていただいています。

     

    松本 定期とも不定期とも言えませんけれど、四半期に一度ぐらいだったでしょうか。食事などしながら、静かな場所でお話させていただいていました。そこから、産業僧の道がひらけたのかもしれません。

    俯瞰的に捉えるという点では、コンサルティングやコーチングなど、第三者的な相談役は今や様々な選択肢があるなかで、「僧侶」を相談役に置くということは、五十嵐さんにとってどういうことだったのでしょう。  

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    五十嵐 庸公様

    株式会社ジャパンクリエイトグループ

    代表取締役会長

  • いにしへの智慧をいただいて、人をみる。自らの成長をもって、人を育てる

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    松本 紹圭

    株式会社Interbeing 代表取締役

    五十嵐 私は昔から「人徳経営」に関心がありまして、各界の経営者の著書を読んだりしていました。コンサルティングでは、大体は売上や収益に目を向けて、業績を上げるため、どのような事業づくりと組織づくりをするかがテーマになります。そこについては、私は自分なりのノウハウがあると思っています。会社は人材ですので、「人」に焦点を当てた時、「業績をつくる人」をいかに扱うかというより、事業に集まる「人をみる」にあたって、長年受け継がれてきた教えというのは、やはり響くものがあるんですね。それは、宗教である必要はないのですけれども、僧侶にお会いしていると落ち着きますし、精神世界における心のケアになるものは、雑踏した世に身を置いて経営を行う経営者にとって、必要だと思います。

    働く人も、業績を追い掛け、組織に揉まれ、人との関係から精神的に追い詰められて鬱になっていくー。家庭環境や親子関係で抱えている問題や悩みなど、特に社外のことについては、組織の中ではケアできないところがあります。

     

    松本 プライベートに立ち入ることは、会社という組織においては、そもそもあまり馴染まないことでもありますね。とはいえ、一人の人としてプライベートと仕事を完全に切り分けられるものではありませんから、必ず影響が出てくるものです。

    五十嵐 普段、家がお寺の檀家であったりして僧侶とのお付き合いや仏教に触れられる人は、現代ではほんの僅かではないでしょうか。

     

    松本 リタイアされ、時間にゆとりができてお寺に足を運ばれる方は多くいらっしゃいますけれど、日々仕事に追われている現役の方は、関心があったとしても、なかなか難しいと思います。

    五十嵐 特に、チームのマネジメントをする中間管理職は、一番思い悩んでいると思います。少し俗世間から離れた場で、僧侶と話をしたり悩みを相談をすることで、絡まっていた思考を整理できたり、沸々としていた心のケアができればいいな、と。そして、時にどうしても偏ってしまう考え方をみつめるためにも、必要だろうと。まずは一度、場面づくり、環境づくりをしてみようと、産業僧を社内に導入しています。

     

    松本 経営幹部の方々を対象に、何度か講演もさせていただきました。そこには、どういった意図があったのでしょうか。

    五十嵐 人生を生きるにおいて、社員は家族のようでもあり、誰よりも長い時間を共にする仲間でもあります。そうした仲間の家族も、私たちは大切にしなければいけません。ひと家族5人とすると、1人雇えば5人、100人雇えば500人の生活を担っていかなければいけない。会社にはそういう使命があると、昔聞かされたことがありまして、私はその考えに共感しているんですね。経営陣や幹部の方々に、会社にはそうした使命があることを伝えるにあたっては、まず、自らがそうした精神世界において、実態をもって落ち着きのある存在でないといけませんね。人間ですから、感情や欲などが昂って行動に出てしまうこともありますけれど、教育というのは、自分自身の成長がなければ、それ以上にはならないだろうと。知識武装するだけでなく、精神的な人格成長が必要だと思いますね。

     

    最近、第一線を引退された先輩経営者の方から『論語』を薦めていただきまして。本を手にして読んでみると、これが大変心に響くんですね。社内会議の冒頭で、以前は禅の言葉を用いていましたけれど、最近は『論語』の一節を紹介するようにしています。そこには、例えば「己の欲せざる所 人に施すこと勿れ(自分がされて望まないことは、人にしない)」といった当たり前のことが書かれているわけですが、世の中には、そうした当たり前のことが、当たり前にできない状況に溢れています。

     

    大きくは戦争や政治の話から、身近なところではハラスメントなど様々ありますけれども、そうしたことは、いにしえからずっと、先人たちの教えのなかで語られています。禅のことばであれば、ざっと一千年前から語り継がれているわけです。人間の精神構造は、文明がどんなに発展しても、そう変わっていない。受け継がれてきた智慧を会社の仲間に共有したい一方で、利益を上げることに躍起になっている経営者が、そうした教えを解いたとしてもあまり説得力がないといいますか、綺麗ごとになりかねません。そこは、お坊さんのお役目なのかなと、ある意味、お坊さんの存在を利用させていただいて、力になっていただいている次第です。

     

  • 理念を耕しながら、仲間になっていく

    松本 利益を求める話と普遍的価値を求める話は、五十嵐さんの中では一つであっても、状況によって二股に聞こえることがあります。そうした意味で、顔を変えた方が伝わりやすいということは確かにあって、産業僧の役割は、普遍的な価値を翻訳、代弁する役割ではないかと思っています。

    どんな企業であっても、多くの場合、理念は普遍的メッセージを持ち合わせています。一方で、日々の現実に向き合い、利益や実績での結果を出すことを求める経営者の立ち場からは、そこに普遍的価値を伴う理念や哲学があることは伝わりにくい。僧侶という存在から、相手に合わせて語り直すことで共有できることがある。そこでは、仏教の教えをあえて持ち込む必要はなく、むしろ、傍に置いておいていい。やっていること自体は、理念を会社の内外に浸透させていくという点で「布教」に近いと思いますね。

    五十嵐 私自身、立場的に、日々の業務に立ち入っていないだけにわからないー。ゆえに、言いやすいということもあります。普段からものを言う立場にないから言いやすい、と言いますか。言われる人も、少し距離がある人からの方が、受け取りやすいかもしれません。

    松本 会長という立場は、より哲学的、 "僧侶的" な立場かもしれませんね。

    五十嵐 哲学のない経営は、永続的には続かないと思います。一代限りで終わったり、事業を容易く売ってしまうような経営には、哲学がないように思いますね。その時々の経営者が、学びながら次の世代へと渡していくことが大切で、短期的な判断や振る舞いで会社を潰すようなことはしない方がいいと、私は思います。ですから、社内で哲学を共有できていることは大切で、意識を耕すためにも、仏教や儒教、道教といった古典の智慧を取り入れています。

    ただ、現代社会にはあまりそぐわない語り方もありますから、時に翻訳も必要で、選択をしながらですね。売上やコストをシビアに捉えながら、人間学的なことを語るのは、矛盾も生じます。そうした物事を俯瞰して整理することは、幹部層からやっていかなければいけない。

     

    松本 人を育てる人から、ということでしょうか。

    五十嵐 社員から悩みごとが出た時に、そこに至る過程をみながら、ゆったりと相談に乗ってあげられる徳の高い人材が育っていくといいなと思いますね。自ら学びの機会を重ねることはなかなか難しいですから、会社が、それが出来る環境を整えていけるといいなと。

    産業僧対話では、これまで色々な人と対話をされてきたと思いますが、本人が自ら望んでいてこそ響くものがあるでしょうし、対話する意味がありますよね。何か問題を抱えている人にこそ対話の機会をと思うのですが、そうは思うようにはならないことに、私たちの課題があるのかも、しれません。